あせもはとびひの原因になるかも! 悪化させないために早めの受診を
カテゴリー:コラム
2021年7月27日

暑い日が続いて、汗をたくさんかくとできがちな「あせも」。
高温多湿を避けて汗をかかないようにしていれば自然に良くなっていくことが多いですが、アトピーや軽い湿疹があったり、放置したりすると細菌感染症を引き起こすこともあり、最悪死亡する場合があるので、十分に注意が必要です。
皮膚はだれでもすぐ見てわかる「臓器」なので、すこしでもだと思ったら対処していくのが大切だと知ってほしいと思います。
皮膚状態が改善すると人生は確実に豊かになっていくので、一緒に勉強してまいりましょう。
汗疹は「エクリン汗腺」が詰まってできる病気
汗を出す「汗腺」には「エクリン汗腺: Eccrine sweat gland」と「アポクリン汗腺: Apocrine sweat gland」の2種類があります。
「アポクリン汗腺」は、脇、鼻、耳の穴、乳輪、へそ周り、性器周辺に分布していて、粘り気のある汗を出します。情緒刺激により発汗が促進されます。また、皮膚の常在菌によって汗の成分が分解されて、しばしば匂いの原因になります。
「エクリン汗腺」は、全身の皮膚に分布し、手のひら、足の裏、脇には特に多いです。暑さの、精神的緊張、辛さなどの味覚刺激、交感神経により刺激されて発汗が促進されます。皮膚の潤いを保ったり、暑いときに汗を出して体温調節をするのはこちらの方です。
汗疹(Miliaria)はエクリン汗腺の管が詰まって、周辺の組織に汗が漏れ出して水疱(水たまり)を作る病気です。
詰まる場所によって、水晶様汗疹、紅色汗疹、深在性汗疹の3つに分類されます
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水晶様汗疹 (白いあせも)Miliaria crystallina
層内や角層直下で管がつまっているため、皮膚の浅いところに汗がたまります。そのため、白くてやや透明感のある数ミリ大の小さな水疱がたくさん見えます。かゆみや痛みはほとんどなく、乳幼児や、大人だと過度の日焼けや発熱時の発汗後などにみられます。
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紅色汗疹 (赤いあせも)Miliaria rubra
白いあせもに比べると、表皮内の少し深いところで管が詰まっています。1~2ミリ大の赤くプツプツがたくさんでき、かゆみや痛みを伴います。一般的に多いのがこちらのタイプです。悪化するとジュクジュクした状態になってしまうこともあります。体幹や肘や膝、首や脇にできやすいです。湿疹化したり、細菌感染して膿疱性汗疹になったりする場合があります。
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深在性汗疹 (日本ではまず見ない)Miliaria profunda
赤いあせもを繰り返すうちに重症化して、真皮で管が詰まり、汗をかくときに、かゆみがない青白い平らな丘疹が多発するようになった状態。熱帯地方のような多湿高温にさらされると生じると言われているため、日本ではここまで重症になるのあせもは見られないといわれています。
※アポクリン汗腺が詰まって、汗が漏出する病気に「Fox-Fordyce(フォックス フォアダイス)病」というのがあります。脇、乳輪、外陰部などに肌色〜紅色で2~3ミリ大の毛穴に一致した丘疹が集中してできます。強いかゆみを伴い、ひっかくことで化膿したり、苔癬化(皮膚ががさがさになって分厚くなること)したりします。思春期から中年の女性に起こりやすいと言われています。放置していいことはなにもないので、素早く受診しましょう。
紅色汗疹は受診するべき
水晶様汗疹 (白いあせも)は特別な治療を行わなくても、高温多湿を避けて清潔を保って乾燥させると自然と治っていきます。
具体的には冷房が効いた部屋で過ごす、ゆるめのシャワーを浴びる、すばやくあせを 拭き取る、通気性のいい服を着る、赤ちゃんであればベビーパウダーなどで汗を吸い取って、「だま」ができたらそれを取り除く、などです。
赤ちゃんに発生することも多いです。出生時から有るものは何らかの病気が原因になっていることもあるようですが、出生後しばらくしてから 一時的に発生して消えていくものは、特に問題ないとされています*1
紅色汗疹(赤いあせも)はかゆみや痛みがある患部にステロイドの塗り薬を行うのが一番の治療方法です。すぐに受診しましょう。掻いてしまうリスクが有るので、放置は良くないです。起きている間はなんとかなっても、寝ている間などに無意識に掻いてしまい、その傷に細菌が繁殖し、伝染性膿痂疹(とびひ)になってしまった場合には違う対応を行う必要が出てきます。*2
※汗が刺激となって炎症を起こした状態の「汗かぶれ」とは、似た症状ですが別の病気です。かゆみやかぶれが気になるようであれば、こちらも受診しましょう。
あせもが悪化したらどうなる?
伝染性膿痂疹(とびひ):Impetigo は、年齢に関係なく発症しカサブタができる「痂皮性膿痂疹:bullous impetigo」と、乳幼児に起こりやすく水疱をができる「水疱性膿痂疹:non-bullous impetigo」に分けられ、通常は痕を残さないで治癒します。
※病変部にある水疱は破れやすく、細菌が含まれている中身が周辺に拡散されます。感染力が強く、患者自身や接触者に新たな病変を作ります(接触感染)。そのため、「とびひ」と言われます。
- 痂皮性膿痂疹
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主な原因菌は、A群β溶連菌です。細菌が表皮の角層下に感染して、真皮まで細菌本体が広がります。そのため、小さい赤いぶつぶつから症状が始まり、膿疱(膿がたまった水ぶくれ)、カサブタができます。真皮の血管から出血を起こすために、厚いカサブタになります。
年齢や季節に関係なく起こり、発熱やリンパ節の腫れ、咽頭炎などが同時に起こったり、腎炎が続いて発生することがあります。皮膚を清潔に保つ、菌の拡散を防ぐためにタオルを患者専用にする、かゆみが強いときは抗ヒスタミン剤(かゆみ止め)を内服したうえで、抗生物質の内服や外用を用います。さらに、腎炎予防のために、症状が良くなった後も10日間抗生物質を内服する事が必要です。
- 水疱性膿痂疹
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主な原因菌は黄色ブドウ球菌です。細菌が作る「表皮剥脱毒素」が表皮の細胞同士の接着を緩めてしまい、表皮内に水疱ができます。
夏に多く、乳幼児に起こりやすく、保育園などで集団発生する場合があります。子供が触りやすい、鼻の穴、耳に拡大していることが多いです。水疱が破れてただれてカサブタを作ることがあります。
こちらも、皮膚を清潔に保つ、菌の拡散を防ぐためにタオルを患者専用にする、かゆみが強いときは抗ヒスタミン剤(かゆみ止め)を内服したうえで、抗生物質の内服や外用を用います。
また、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)*3に移行することがあります。
- ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)
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黄色ブドウ球菌が作る「表皮剥脱毒素」が血中にながれて全身に拡大し、全身の皮膚でごく浅いやけどのような表皮剥離、水疱、赤み、ただれが起きます。一見正常に見える皮膚も、毒素の影響で、こすると容易に剥がれます。
汗疹からとびひに移行しても、ここまで悪化することは非常に稀です。もし起こった際は入院して全身管理をしてもらった上で、抗生物質の点滴が必要です。乳幼児の場合は予後がいいとされていますが、成人だと抗生物質を投与していても死亡率は50%を超えるとされています(*4)
※溶連菌も黄色ブドウ球菌も、実は常在菌の一つとして、健康な人でも保有していることもあります。何も症状を起こさなければ、仮に何らかの検査で検出されても、特に治療の必要はありません。
あせもの原因と対策
汗を搔くことがあせもの原因ですので、多汗症の人はあせもになりやすいです。
多汗症の原因としては
- 甲状腺機能亢進症
- 糖尿病
- 感染症
- 膠原病
- 神経疾患
- 悪性腫瘍
- 肥満
- 薬剤(向精神薬など)
- Frey(フライ)症候群
- 皮膚疾患(エクリン母斑など)
- 末梢神経障害
などがあります。
原因がはっきりしている場合は、その病気の治療を行いましょう。発汗の多い部分に対しては塩化アルミニウムの外用、イオントフォレーシス、A型ボツリヌス毒素局所注射などがよいとされています。難治例(どうしても治らない場合)は、交感神経遮断術*5を行うこともありますが、代償性発汗(他の部位で汗が増える)に注意する必要があります。
※イオントフォレーシス:皮膚表面に電流を流して、イオン化した有効成分を皮膚表面から皮内へ浸透させる治療方法。イオン導入ともいいます。水道水イオントフォレーシスでは、電気分解によって生じた水素イオンがエクリン汗腺の働きを抑えて発汗が抑えられると言われています。
※A型ボツリヌス毒素:Clostridium botulinum(クロストリジウム・ボツリヌム)という細菌が作る毒素、アセチルコリンを阻害する。エクリン汗腺からの発汗はアセチルコリンという物質によって促進されているので、汗が多い部分に注射すると発汗量が減るとされています。
アトピーの人はあせもが悪化しやすい
あせもがとびひに移行しやすいのは、軽い湿疹やアトピー性皮膚炎がある人です。
「皮膚のバリア機能が低下している状態」で細菌が入り込みやすい状態です。
湿疹はかゆみで掻いてしまいがちですし、アトピー性皮膚炎の方は皮膚のバリア機能が弱っているため、汗の他に、ひっかいたり、こすったり、肌への刺激や石鹸、化粧品、紫外線などによっても悪化する場合があります。つまりアトピー性皮膚炎をお持ちの方は汗疹や汗かぶれといった肌トラブルになりやすい状態です。季節を問わず保湿を意識し皮膚の清潔を保つことが大切です。
日々のケアを大切にしましょう。
まとめ
汗疹(あせも)は3つのタイプに分かれますが、いずれも適切に対処・治療すれば改善していくものです。年齢や季節に関わりなく発生する可能性があると言われていますので
・日々のスキンケア
・高温多湿を避ける
・通気性のいい服を着る
・汗を素早く拭う
・ぬるめのシャワーを浴びる
が大切です。
水晶様汗疹: miliaria crystallina (白いあせも)は自然治癒が見込める
紅色汗疹: miliaria rubra (赤いあせも)は痒みがあるために、ステロイド外用が必要。受診が必要
アトピー性皮膚炎や湿疹がベースに有ったり、引っ掻いたりして細菌が入り込むと、とびひなどに悪化していく可能性があるので、放置してはいけない。
この点を覚えていただきたいと思います。
参考文献